
「AIを入れれば業務効率化が進むと聞いて実際に導入したのに、なぜか忙しさが変わっていない」というご相談を、中小企業の経営者の方から受けることが増えました。うちのチームも同じ壁にぶつかった時期があります。議事録の要約、提案資料のたたき台、長いメールの下書き——たしかに一つひとつの作業は速くなったのに、チーム全体の余白はほとんど増えていなかったんです。原因をたどっていくと、AIを「作業を肩代わりする道具」として置いていたことに行き着きました。今うちが仕事を組み立てるときに使っているのは、人1:AI8:人1という分け方です。代表の山根が「1:8:1の法則」と呼んでいるもので、真ん中の8割はAIに渡し、入口と出口の2割は人が手放さない、という考え方なんです。この記事では、その8割に何を渡したのか、そして渡さなかった2割に何が残ったのかを、EC支援の現場から書いていきます。
うちが最初にやったのは、目についた作業からAIに置き換えていくことでした。議事録の要約、提案資料のたたき台、長いメールの下書き。どれも実際に速くなりましたし、担当者の手ごたえも悪くなかったんです。ただ半年ほど経ったころに気づいたのが、一つひとつの作業は短くなっているのに、チーム全体で見たときの余白がほとんど増えていないことでした。作業時間の合計は減っているはずなのに、なぜか毎日バタバタしている。この感覚、心当たりのある方は多いんじゃないでしょうか。
理由はシンプルで、作業を速くしても、仕事の順番そのものは変わっていなかったからなんです。たとえば「資料を作る」という作業が3時間から1時間になっても、その前段にある「何を提案するか決める」という工程が変わらなければ、案件全体にかかる日数はほとんど動きません。中小企業の場合はとくにこれが起きやすくて、一人の担当者が入口の打ち合わせから分析、提案、実行までを一本で持っていることが多いんですよね。そうすると一部の作業だけ速くしても、詰まっている場所が別にあるので、全体の速度は変わらないんです。
もうひとつ大きかったのが、AIに渡す範囲を作業単位で決めていたせいで、「これはAIに任せていい仕事か」を毎回その場で判断していたことでした。基準がないので担当者によって渡す量がバラバラになりますし、慣れている人ほど自分でやってしまうんです。中小企業のAI活用事例については中小企業でもできるAI活用の事例でも紹介していますが、事例をそのまま真似ても定着しないことがあるのは、この「どこまで渡すかの基準」が社内にないままだからだと感じています。必要だったのは新しいツールではなく、仕事全体をどこで区切るかという線引きのほうだったんです。
線引きを考えるうえで、代表の山根が言語化したのが「1:8:1の法則」でした。仕事全体を10としたときに、入口の1を人が持ち、真ん中の8をAIに渡し、出口の1をまた人が持つ、という分け方です。真ん中の8というのは、分析・対策の立案・提案書の作成・数値の予測といった、情報を整理して形にしていく部分ですね。ここは人がやると時間がかかるわりに、丁寧さより網羅性がものを言う領域なので、AIのほうが向いているんです。
大事なのは、この分け方が「AIにできることを探した結果」ではなく、「人にしかできないことを先に決めた結果」だということなんです。順番が逆なんですよね。AI導入のご相談を受けていると、「今の業務のうちどこをAIに置き換えられますか」という聞かれ方をすることが多いのですが、そこから入ると置き換えやすい作業から順に移していくことになって、結局さきほどの「速くなったのに余白が増えない」状態に戻ってしまいます。先に「ここだけは人が持つ」を決めてしまえば、残りは全部渡していいと判断できるので、迷う時間そのものが消えるんです。
表にすると、うちの中ではこういう分担になっています。数字の比率そのものより、「入口と出口を人が挟んでいる」という形のほうが大事だと感じています。
| 位置 | 担当 | 具体的にやっていること |
|---|---|---|
| 入口の 1 | 人 | 関係づくり、本音を引き出す、その会社の事情を知る |
| 中間の 8 | AI | データ分析、課題の切り出し、対策の立案、提案資料、数値の予測 |
| 出口の 1 | 人 | 提案の言語化、伝える順番とタイミング、実行後の関係維持 |
この表だけ見ると当たり前のことのように思えるかもしれませんが、実際に運用してみると、8割をAIに渡すというのは想像以上に思い切りが要ります。「自分でやったほうが早い」と感じる場面は今でもありますし、渡した結果が期待どおりでないこともあります。それでも渡し続けているのは、入口と出口の2割にどれだけ時間を注げるかで、最終的な結果が変わってくると感じているからなんです。
具体的にうちが真ん中の8で何をしているかというと、クライアントごとに管理画面から落とせるデータをまとめて投入して、そこから課題を切り出すところまでをAIに任せています。売上、アクセス、転換率、新規とリピートの比率、広告の実績——EC支援の場合はこのあたりですね。人が見ると「今月は売上が落ちましたね」で終わってしまうところを、どの指標がどう動いた結果として落ちたのかまで分解してくれるので、次に何を確認すべきかがはっきりします。
ここで効いているのが、うちのチームがもともと苦手だった「因数分解」をAIが肩代わりしてくれることなんです。たとえばアクセスが前月より減っているとき、それが自然検索なのか、広告なのか、外部からの流入なのかで打ち手はまったく変わりますよね。でも経験の浅いメンバーほど、「アクセスが減っている」という粗い認識のまま次の施策を考えてしまいがちなんです。AIが先に分解した結果を見せて、そこに自分の考えを足してもらうようにしたら、提案の中身が目に見えて変わりました。
もうひとつ、思っていたより効果が大きかったのが提案資料の見せ方です。以前は文字だけの資料をお渡ししていたのですが、正直なところ反応はあまり良くありませんでした。今は図解と3か月のロードマップ形式——目標に対して何月に何を重点的にやるかを並べる形に変えています。書いている中身は以前とそれほど変わらないのに、「わかりやすくなった」と言っていただけることが増えたんです。同じ内容でも見え方が変わるだけで、理解度と反応がここまで違うのかというのは、正直な驚きでした。
渡すときのコツがあるとすれば、データを絞らずに入れてしまうことだと感じています。以前は「この分析にはこの指標」と人が先に選んでから渡していたのですが、そうすると人が想定した範囲の答えしか返ってきません。管理画面から落とせるものを一通りまとめて渡すようにしてから、こちらが見落としていた指標のほうに原因があった、というケースが出てくるようになりました。自分では死角になっていた部分を拾ってもらえるのが、真ん中の8をAIに渡すいちばんの価値かもしれません。逆に、指標を絞って渡してしまうと、人の思い込みをそのまま拡大再生産することになってしまうんですよね。
ただし、AIが出してきたものをそのままお渡しすることはありません。出てきた分析には、その会社の事情を知らないと出せない前提が抜けていることがあるからです。たとえば入荷が不安定な商材で「露出を増やしましょう」という提案が出てきても、そもそも在庫が続かなければ意味がないんですよね。そういう「その会社だけの事情」を知っているのは、入口の1を持っている人だけなんです。
入口の1でやっていることを一言でいうと、本音を言ってもらえる関係をつくることです。ここはAIがどれだけ賢くなっても代われない部分だと感じています。というのも、うちが分析に使っているデータは、クライアントが共有してくださったものが前提なんですよね。共有されていない情報があると、どれだけ精度の高い分析をしても、前提が抜けたままの答えが出てきてしまうんです。
そして実際のところ、都合の悪い情報ほど直前まで共有されないことが多いんです。卸先で価格が崩れている、来月から仕入れ値が上がる、主力商品の在庫が続かない——こういう話は、たいてい数字に出てから知らされます。理由は隠したいというより、メンツの部分が大きいと感じています。卸が弱いと言うと会社全体が弱いと思われそうで言いにくい、という気持ちは、立場を想像すればよくわかるんですよね。
だからうちがやっているのは、こちらから先に腹を割ることです。打ち合わせの中に「実は私の本音を言うと、この施策はこう思っています」という一言を、意識して一つ混ぜるようにしています。きれいなビジネストークだけで終わらせない、ということですね。それをやると、相手も本音で返してくださることが増えるんです。言われるがままに動く何でも屋にならないという話は信頼されるECマーケターの条件でも書いていますが、信頼される関係の入口は、たいていこの「先に本音を出す」ところにあると感じています。
それでも共有されない情報は残ります。そこは数字の変化から先読みするしかないので、うちでは「ある商品の販売価格が前の週から急に大きく下がっている」といった動きを見つけたら、卸先で価格が崩れている可能性を疑って、こちらから確認するようにしています。人が関係をつくり、AIが変化を拾う。この組み合わせにすると、言ってもらえていない情報にも近づいていける感覚があるんです。
出口の1は、AIが整理した内容を、クライアントに届く言葉に変える部分です。ここも人が持っています。同じ数字、同じ提案でも、言い回しひとつで受け取られ方がまったく変わるからなんです。
たとえば売上が昨年を下回っている店舗さんに、「昨対比マイナス30%です」とだけお伝えしても、たいていは表情が硬くなって終わってしまいます。ご本人が一番わかっていることなんですよね。うちがお伝えするようにしているのは、「このままのペースだと今月はこのくらいで着地します。ただ、この3つに手を入れれば、ここまでは戻せる可能性があります」という形です。今の数字と、動いた場合の数字を並べて出す。この差分があると、話が「反省」から「相談」に変わるんです。
クライアントが本当に求めているのは、過去の分析ではなく未来の数字なんだと感じる場面がよくあります。振り返りだけの資料はどうしても受け身の空気になりますが、この先どうなりうるかが入っているだけで、前のめりに聞いていただけるようになるんです。山根がよく言っている「クライアントは未来の希望の数字が欲しい」という言葉は、現場にいると本当にそのとおりだと感じます。
伝えるタイミングも出口の1に含まれます。同じ提案でも、売れているときは前向きに聞いていただけますが、数字が厳しいときは「今はそれどころじゃない」となりやすいんです。なので月に一度の定例でまずお話ししておいて、数字が動いたタイミングであらためてご相談する、という進め方をしています。何をいつ言うかを決めるのは、その会社の空気を知っている人にしかできない仕事なんですよね。
8割を渡すと決めたあとも、AIに渡さないと決めている領域があります。ひとつは「数字は正しい、でも何かが違う」という感覚です。分析としては筋が通っているのに、この会社にこのタイミングで出す提案ではない、と感じることが実際にあるんです。うまく説明できないその引っかかりが、あとになって当たっていたということが何度かありました。
もうひとつが「理屈はわかるけれど、社内が許さない」という組織の力学です。ECとして最適な打ち手でも、クライアントの社内で通すコストが高すぎることがあります。稟議が何段階もある、過去に失敗した施策と似ていて拒否感が強い、担当者の立場が悪くなる——こういう事情は数字には出てきません。うちはこういうとき、ECとしての最適解より、クライアントが安全に動ける範囲での最大化を優先することがあります。遠回りに見えても、そのほうが結果的に続くからなんです。
感情とデータのどちらを軸にするかという話は感情とデータ、ECマーケティングで効くのはどちらかでも書いていますが、うちの立場はどちらか一方ではなく、整理はデータで、最後の判断は人で、という分け方に近いです。渡しているものと渡していないものを整理すると、こういう違いになります。
| 仕事の種類 | 具体例 | 担当 |
|---|---|---|
| 情報を整理する仕事 | データ分析、課題の切り出し、対策の候補出し、資料づくり | AI |
| 前提を集める仕事 | 言われていない事情の把握、現場の温度感、社内の力学 | 人 |
| 最後に決める仕事 | 出す・出さないの判断、伝える順番とタイミング | 人 |
この表でいうと、下2つの「人」の欄が薄い会社ほど、AIを入れても手ごたえが出にくいように感じています。逆に言えば、ここが強い会社であれば、AIに渡す範囲は思い切って広げてしまっていいということでもあるんです。まずは自社の仕事をこの3つに仕分けしてみると、渡せる範囲が思っていたより広いことに気づけるかもしれません。
ここまでは分担の話でしたが、うちにとって本当に大きかったのは、8割を渡した結果として何が起きたかのほうでした。一番わかりやすい変化は、クライアント一社あたりに使える時間が増えたことです。
以前のうちは、正直なところ作業で手一杯でした。マーケティングの経験が浅いメンバーが多いチームで、目の前の作業をこなすだけで一日が終わってしまう。そうすると、一社ごとに「この会社は何で困っているんだろう」を深く考える余白がなくなるんですよね。伸ばしきれていないクライアントがあったのは、能力の問題というより、この余白がなかったからだと今は思っています。
余白が生まれてからは、打ち手の数を増やせるようになりました。今うちがお引き受けしている支援は、大きく分けると根幹部分・売上への貢献・広報活動の3つで、それぞれに4つずつ、合計12の打ち手があります。以前は販促や広告といった目立つ部分だけで手一杯でしたが、今は商品ページの作り込みや配送まわりの説明、採用や財務のような地味な部分まで一緒に見られるようになりました。サービス一覧に一通り並べてありますが、増えたのはメニューの数というより、一社ごとに手を伸ばせる範囲のほうなんです。
この12という数え方をしているのは、支援の幅を自分たちで把握しておくためでもあります。根幹部分というのは商品ページや配送・在庫まわりといった、売る前の土台にあたる部分ですね。売上への貢献は販促や広告、モール内の検索対策など、数字に直接効く部分です。広報活動はSNSや自社サイト、採用の発信といった、外から見た会社の姿をつくる部分にあたります。以前は真ん中の「売上への貢献」だけで手一杯になりがちだったのですが、実際に数字が動かない原因は土台側にあることが多いんです。配送の説明が足りていない、在庫が切れやすい、そもそも商品ページで不安が消えていない——広告を足す前に見るべき場所がある、という判断ができるようになったのは、時間の余白が生まれたおかげだと感じています。
そしてもうひとつが、メンバーの育ち方が変わったことでした。AIが先に因数分解した結果を見せて、そこに自分の考えを足してもらう形にしたら、「自分の意見とロジックで提案して、結果が出た」という体験をするメンバーが増えたんです。自分の店の数字で学ぶ育て方についてはEC未経験の新人に何を教えるかでも書いていますが、AIが担っているのは「気づき」ではなく「翻訳」だと考えていて、気づく力のほうは人が育つしかない部分だと感じています。
中小企業のAI業務効率化がうまくいかないときは、たいてい「どの作業をAIに置き換えるか」から入っています。うちが手ごたえを感じられるようになったのは、先に「人がここだけは持つ」を決めてから、残りを思い切って渡すようにしてからでした。人1:AI8:人1。入口の関係づくりと、出口の言語化。この2割さえ人が握っていれば、真ん中は大胆に渡してしまっていいと感じています。
そして、渡して空いた時間を何に使うかまで決めておくことが大事なんだと思います。空いた時間をそのまま別の作業で埋めてしまうと、結局もとの忙しさに戻ってしまいますよね。うちの場合は、その時間をクライアントを深く知ることと、打ち手の数を増やすことに使うと決めました。決めておかないと、余白は簡単に消えてしまうんです。
最後にひとつだけ。うちがこの分担で目指しているのは、支援をずっと続けることではなく、型と蓄積したデータごと御社の中にお渡しすることです。最初は私たちが形をつくり、次に一緒に運用して、最後はノウハウごとお渡しする。自走できる状態まで持っていくのが、いちばん喜んでいただける形だと感じています。もちろん、実行はこのまま任せたいという場合はそのまま伴走もします。まずは今の業務のうち「これは人が持つべきだ」と思える2割がどこかを、書き出すところから始めてみてください。
SNSとECの課題、私たちが一緒に解決します。
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