ブランディング2026.07.27TWELVE

会社を良く見せて採るほど、人は辞める|等身大で伝える採用

会社を良く見せて採るほど、人は辞める|等身大で伝える採用

採用で会社を良く見せようとするのは、ごく自然なことだと思います。応募が欲しいので、良いところを前に出す。写真は明るいものを選ぶ。制度は充実しているように書く。誰も嘘をついているつもりはありません。

ただ、実務で見ていると良く見せて採った人ほど、早く辞めます。これは能力の話ではなく、入る前に描いた絵と実際の毎日が違うからです。

この記事で書きたいのは、定着は入社後の施策ではなく、採用時の伝え方でほぼ決まっているという話です。オンボーディングを丁寧にする前に、その手前で直せることがあります。

辞める理由は、入社後ではなく採用時に作られている

「せっかく採ったのに3ヶ月で辞めた」という相談を受けたとき、私たちは入社後ではなく採用の過程で何を伝えたかを聞きます。すると、たいてい同じ構造が出てきます。

採用時に伝えたこと 入社後の実態 本人が感じること
「裁量が大きい環境です」 決める人がいないので自分で全部やる 裁量ではなく丸投げだった
「風通しが良い会社です」 言えるが変わらない 聞くだけで何も動かない
「未経験から成長できます」 教える人に余裕がない 放置されている
「幅広い業務に関われます」 専門性が身につかない 何の経験も残らない

左の言葉は、どれも嘘ではありません。実際にそういう面はあります。問題は、良い面だけを切り出したので、同じ事実の裏側が伝わっていないことです。

裁量が大きいのは、決める人が少ないからです。風通しが良いのは、組織が小さいからです。幅広い業務に関われるのは、分業できていないからです。どれも同じコインの裏表で、片面だけ見せると、もう片面に出会ったときに「騙された」と感じさせてしまいます。

だからここでの提案はシンプルです。裏側も一緒に伝えてしまう。「決める人が少ないので、自分で判断する場面が多いです。指示を待つ働き方が合う方には向きません」と書く。そうすると、それを望む人だけが来ます。

盛った採用のコストを、具体的に数える

「盛らない方がいい」というのは倫理の話ではなく、経営として損だからという話です。1人が3ヶ月で辞めたときに失うものを並べてみます。

最後の1つが、金額に出ないぶん実はいちばん重いと感じています。人が入っては辞めるのを繰り返すと、残っている社員が新しい人に本気で向き合わなくなります。「どうせまた辞めるだろう」という空気ができると、次に入った人が本当に辞めやすくなります。これは1人の離職では終わらない損失です。

逆算すると、応募が10人来て1人が3ヶ月で辞めるより、応募が3人来て1人が3年続く方が圧倒的に得ということになります。応募数を目標にすると、この計算が見えなくなります。

等身大で書くと、具体的にどう変わるか

では実際にどう書き換えるのか。抽象論だと分かりにくいので、書き方を対比で並べます。

よくある書き方 等身大の書き方
アットホームな職場です 少人数なので、合わない人がいると逃げ場がありません
充実した研修制度 体系的な研修はありません。最初の1ヶ月は先輩に付いて実務で覚えます
やりがいのある仕事 クライアントの売上に直接影響します。数字が落ちたときは自分の責任として向き合うことになります
残業は少なめです 通常は定時ですが、セール期は月に数日、残る日があります

右側を読んで応募をやめる人は、間違いなく出ます。でもその人は入社後に辞めていた人です。辞める人が入社前に自分で判断してくれたと考えれば、これは損失ではありません。

そして右側の書き方には、もう一つ効果があります。読んだ人が「この会社は正直だ」と受け取ることです。他社が良いことしか書いていない中で、都合の悪いことも書いてある求人票は、それだけで信頼の材料になります。応募数は減っても、応募の質は上がる方向に働きます。

この「都合の悪いことも書く」という姿勢は、採用に限らず会社の発信全体に効きます。ブランディングは「約束」から始まるで書いた「守れる約束だけを書く」という考え方と、同じことを採用の文脈でやっているだけです。

面接を、見極める場から確かめ合う場に変える

求人票を等身大にしても、面接で盛ってしまうと元に戻ります。ここも合わせて変える必要があります。

面接でやりがちなのは、応募者に来てほしくて良い面を強調することです。特に良い人だと感じたときほど、そうなります。でもここで盛ると、入社後のギャップが最も大きくなる相手に、最も大きなギャップを作ってしまいます。

私たちが意識しているのは、面接で「うちで苦労する場面」を1つは伝えることです。「クライアントの数字が落ちているとき、原因が分からない期間があります。そこを一緒に耐えられるかどうかは、正直きついところです」というように。

これを言うと、相手の反応が2つに分かれます。表情が曇る人と、逆に前のめりになる人。後者が、続く人です。この選別は、面接でしかできません。

それから、応募者からの質問にはできない理由まで含めて答えるようにしています。「リモートは可能ですか」と聞かれたとき、「基本は出社です」で止めず「クライアントとの連携で同じ場所にいた方が早い場面が多いので、いまは出社を基本にしています」と理由を添える。理由が分かると、納得して選べます。

面接を「選ぶ場」ではなく「約束を確かめ合う場」として設計する考え方は、求人を出しても応募が来ない会社に足りないものでも扱っています。採用担当者向けの手順はそちらにまとめているので、実務の進め方はあわせて見てください。

スカウト・エージェント経由でも同じことが起きます

媒体の求人票を等身大にしても、エージェント経由やスカウトメールで盛られてしまうと、結果は同じになります。ここは見落とされやすい抜け穴です。

エージェントは会社を魅力的に伝えるのが仕事なので、渡した情報の中から良い面を選んで話します。悪意はありません。でも都合の悪い面を渡していなければ、良い面しか伝わらないのは当然です。

だから私たちは、エージェントに渡す資料に「向いていない人」の欄を作るようにしています。「指示を待って動きたい方には向きません」「1つの領域を深く掘りたい方には物足りないかもしれません」。この欄があるだけで、紹介の精度がかなり変わります。エージェント側も、ミスマッチで早期離職されるのは評価に響くので、実はこの情報を歓迎してくれます。

スカウトメールも同じです。良い条件だけを並べたスカウトで来た人は、条件で来ています。1行でいいので「ここはきついです」を入れると、返信率は下がりますが面談に来る人の質が変わります。

「正直に書く」と「ネガティブに書く」は違います

ここは誤解されやすいので、線を引いておきます。等身大に書くというのは、自社を卑下することではありません。

違いは「事実を書いているか、評価を書いているか」にあります。

ネガティブになっている書き方 事実として書けている
体制が整っておらず、大変な環境です マニュアルはまだ作っている途中で、手順を自分で組む場面があります
人手が足りず、忙しいです 1人が複数のクライアントを担当します。現在は1人あたり3〜4社です
給与は決して高くありません 給与レンジは◯◯万円です。評価は年2回、成果と担当社数で見ます

左は書いた側の主観です。読んだ人は「大変」「忙しい」の程度が分からないので、想像で最悪を埋めます。右は事実なので、読んだ人が自分で判断できます。判断できる情報を渡すことが目的で、不安にさせるのが目的ではありません。

もう一つのコツは、都合の悪い事実の隣に、それがなぜそうなっているかを1行添えることです。「マニュアルが途中なのは、事業の形が毎年変わっているためです」と書けば、状況として理解できます。理由のない不便は不満になりますが、理由のある不便は納得の材料になります。

「盛らない」と決めるのは、経営者の仕事です

ここまで読んで「でも応募が減るのは怖い」と感じた方は、それが正常な感覚だと思います。だからこの判断は、現場の担当者には下せません。

採用担当者は応募数で評価されがちです。応募が減る書き方を担当者が自分の判断で選ぶのは、構造的に難しいんです。だから盛らない採用をやるなら、経営者が「応募数では評価しない」と先に言う必要があります。

代わりに何で見るか。私たちが置いている指標は3つです。

  1. 1年後の在籍率——採用の成否は入社の時点では分かりません
  2. 内定辞退率——ここが下がるのは、理解が深まった証拠です
  3. 入社3ヶ月時点の「思っていたのと違った点」——本人に直接聞いて記録する

3番目は面談で聞くだけなので、すぐ始められます。ここで出てきた「違った点」が、次の求人票で書き足すべき内容そのものです。ギャップを本人から教えてもらって、次の採用で先に伝える。これを何回か回すと、求人票が実態に近づいていきます。

数字の見方はブランディングは効果測定できないのかで整理しています。採用は結果が出るまで時間がかかる領域なので、手前の数字を持っておく価値が特に高いです。

社内にも、同じ「盛らない」が必要になります

採用で等身大にすると、たいてい社内から声が上がります。「そんなことを書いて大丈夫か」「ネガティブに見えないか」。

ここで説明が必要になるのは、「これは会社を悪く見せるのではなく、正確に伝えている」という点です。悪く書くのが目的ではありません。良い面も都合の悪い面も、同じ精度で書く。それだけです。

そしてもう一つ。盛らない採用は、既存社員に対しても効きます。会社が外に向けて「うちはこういう会社で、ここはきつい」と正直に言っている状態は、いま働いている人にとって居心地が良いものです。逆に、実態と違う美化された求人票が出ていると、社員は「うちの会社は嘘をついている」と感じます。これは思っている以上に士気に影響します。

決めた言葉が社内で共有されているかどうかの確認方法は決めたブランドが現場に伝わらないで書いています。採用ページだけ等身大にしても、社員が別のことを言っていれば意味がないので、あわせて整えるのが本筋です。

全部を書き換えなくていい——まず1行から

ここまで読んで「全部書き直すのは大変だ」と感じた方に向けて、現実的な始め方を書きます。求人票を丸ごと作り直す必要はありません。

まず「向いていない人」の1行を足すだけで始められます。いま出ている求人票の末尾に、こう書き足す。

1行なので、作業は10分で終わります。それでも効果は出ます。この1行を読んで応募を見送る人は、入社後に同じ理由で辞めていた人だからです。

次の段階として、面接に「うちで苦労する場面」を1つ入れる。これも準備は必要ありません。実際に社内で起きている大変なことを1つ選ぶだけです。

そこまでやって手応えがあれば、求人票全体と採用ページの書き換えに進む。順番としては、1行 → 面接 → 求人票全体 → 採用ページです。いちばん手間が小さくて効果が大きいところから手を付けられます。

逆に最初から採用ページを作り直そうとすると、制作の話になって数ヶ月かかります。その間、盛った求人票が出続けることになります。小さく始めて、出続けている情報を先に直す方が、実務としては合理的だと考えています。

正直に書き続けると、何年か後に効いてくること

最後に、少し長い時間の話をします。等身大の採用を続けると、応募数はすぐには増えません。でも数年単位で見ると、別のものが積み上がります。

辞めた人が、悪く言わなくなります。合わなくて辞めた場合でも、事前に聞いていた通りだったなら「自分に合わなかった」で終わります。聞いていた話と違ったときに、人は悪く言います。いまは口コミサイトもSNSもあるので、ここは実際の採用力に跳ね返ります。

そして社員が知り合いを誘えるようになります。実態と違うことを外に言っている会社では、社員は友人を誘えません。後ろめたいからです。逆に会社が正直な状態なら、紹介は自然に出てきます。紹介での採用は、媒体費もかからず定着率も高い、いちばん効率の良い採用です。

この2つはどちらも、短期の応募数には現れません。だから短期の指標だけで判断すると、等身大の採用は「効果がない」と結論されてしまいます。1年後の在籍率と紹介経由の応募数を並べて見る習慣が、この施策を続けるための支えになります。

まとめ:応募を集めるのではなく、続く人に来てもらう

整理します。

  1. 良く見せて採った人ほど早く辞める。原因は能力ではなく、入る前の絵とのギャップ
  2. 「裁量が大きい」「風通しが良い」は同じコインの裏表。片面だけ見せると裏側で裏切られる
  3. 裏側も一緒に伝えると、それを望む人だけが来る
  4. 1人が3ヶ月で辞めるコストには「残った社員のあきらめ」が含まれる。ここがいちばん重い
  5. 応募10人で1人が3ヶ月で辞めるより、応募3人で1人が3年続く方が得
  6. 面接では「うちで苦労する場面」を1つ伝える。反応で続く人が分かる
  7. 盛らないと決めるのは経営者の仕事。担当者は応募数で評価されるので構造的に選べない
  8. 入社3ヶ月時点の「思っていたのと違った点」を聞いて、次の求人票に書き足す

採用で会社を良く見せたくなる気持ちは、人が足りていないときほど強くなります。だからこそ苦しい時期に盛ってしまい、また辞められて、さらに苦しくなる。この循環に入っている会社を、私たちは何度も見てきました。

それと、この話は採用に限りません。お客さまに対して良く見せて受注した仕事も、同じ構造で後から苦しくなります。できないことをできると言って始めた案件は、途中で無理が出ます。採用でも営業でも、等身大で伝えることが結果として長く続く関係を作る——という点では、まったく同じ話をしています。

抜け出す入口は、求人票に都合の悪いことを1行足すところです。応募は減るかもしれません。でも来た人は、それを読んだ上で応募してきた人です。その差は、3ヶ月後ではなく1年後に出ます。

私たちは、会社の実態を言葉にして、採用ページや発信として形にする部分を、外部の実行チームとして一緒に担っています。「正直に書きたいが、どこまで書くと引かれるのか分からない」という段階で止まっている場合は、そこがお手伝いできる部分かもしれません。

※本記事に記載した傾向や進め方は、当社が支援の現場で見てきたものを整理したものです。成果を保証するものではなく、効果には個人差・企業差があります。
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