
求人を出しても応募が来ない。来ても他社と比較されて、最後は給与で負ける。仕方なく求人媒体を増やすと、採用単価だけが上がっていく。中小企業の採用は、ほとんどがこの循環にはまっています。
ここで一つ、視点を変えてみたいんです。応募が来ないのは、条件が悪いからではなく知られていないからかもしれない、という視点です。そしてこれは、給与を上げる以外の打ち手があるという話でもあります。
先に結論を書いておきます。採用で効くのは、条件の上乗せよりも「この会社が何を約束する会社か」がはっきりしていることです。それが決まると、求人票の言葉が変わり、面接の会話が変わり、入社後の定着まで変わってきます。逆にここが曖昧なままだと、媒体を増やしても人材紹介を使っても、同じ場所で詰まり続けます。
この記事では、採用を「知られていないことへの支払い」という視点で捉え直したうえで、求人票・面接・入社後30日という順番で具体的に何をするかを書いていきます。予算をかけずにできる部分から並べているので、人手が足りない状況でも着手できるところがあると思います。
企業ブランディングと聞くと、売上を伸ばすための取り組みだと思われがちです。もちろんそれもあります。ただ、中小企業にとって効果が最も早く、最も金額で分かりやすく現れるのは採用だと私たちは考えています。
理由はシンプルです。採用は、ほぼ全てのコストが「知られていないこと」への支払いだからです。
| 支出 | 本当は何に払っているか |
|---|---|
| 求人媒体の掲載費 | 自社を知らない人の目に触れさせる費用 |
| 人材紹介の手数料 | 自社を知らない人に第三者が説明してくれる費用 |
| 相場より高い提示給与 | よく分からない会社に来てもらうための上乗せ |
| 早期離職による再採用 | 入社前の期待と実際がずれていた代償 |
つまり、知られていて、しかも「どんな会社か」が正しく伝わっていれば、この4つが全部軽くなります。逆に言えば、いま採用にかかっている費用の相当部分は、ブランディングをしていないことへの利息のようなものなんです。
ではどう伝えるか。多くの求人票がここでつまずきます。「アットホームな職場です」「風通しの良い社風です」「成長できる環境です」。全部本当のことかもしれませんが、応募者側から見るとどの会社の求人にも書いてある言葉です。
これはブランディングは「約束」から始まるで書いたことと同じ構造です。会社名を隠して競合の求人票に入れても成立してしまう言葉は、何も伝えていません。
求人票を書く前に、この3つに答えてみてください。
3番目が一番大事です。「うちは残業が多い代わりに裁量が大きい」「給与水準は高くないが、少人数なので一人が担う範囲が広い」。こういうトレードオフを開示している求人のほうが、実は応募が集まります。都合の良いことしか書いていない求人は、読み手が警戒するからです。
採用の本当のコストは、採用したあとに発生します。入社3ヶ月で辞められると、募集費用・面接工数・研修工数が全部消えるうえに、現場の負荷は採用前より重くなります。
早期離職の多くは、能力のミスマッチではなく期待のミスマッチです。「聞いていた話と違う」。これは求人票で盛りすぎた分の請求書が届いた、ということでもあります。
採用ブランディングの目的は、応募数を最大化することではありません。
合う人が来て、合わない人が自分から避けてくれる状態を作ることです。
応募数だけを追うと、母集団は増えても選考工数が膨らみ、ミスマッチも増えます。人手が足りない会社にとって、選考にかかる時間は見えないコストです。絞ったメッセージのほうが結果的に楽になります。
ここが見落とされがちな点です。応募を検討している人は、求人票だけを読んで決めません。まず社名で検索します。そして次のものを見ます。
つまり求人媒体にいくら払っても、その外側で伝わる情報が薄ければ、そこで離脱されます。求人媒体は入口を作る道具であって、決め手にはなりません。決め手になるのは、検索した先にあるものです。
全部やる余裕はないと思うので、効く順に並べます。
| 優先 | やること | なぜ |
|---|---|---|
| 1 | 採用ページに「どんな人に来てほしいか」と「叶わないこと」を書く | ミスマッチが入口で減る |
| 2 | 実際に働いている人の言葉を1つ載せる | 会社の説明より、中の人の言葉が信頼される |
| 3 | 1日の流れが分かる情報を置く | 入社後の想像がつかないと応募されない |
| 4 | 止まっているSNSを畳むか、再開する | 更新が止まった発信は不安材料になる |
4番目は意外に大事です。最終更新が2年前のアカウントは、何もないより悪い印象を与えることがあります。続けられないなら見えないようにするのも判断です。
ここは私たちの領域なので具体的に書きます。EC運用やSNS運用ができる人材は、求人市場でかなり取り合いになっています。広告運用・商品ページ制作・データ分析・SNS運用を一人でこなせる人は、そもそも希少です。
しかも採れたとしても、その一人に依存する構造ができてしまいます。辞められた瞬間に運用が止まる。これは採用の問題というより体制設計の問題です。詳しくはEC担当者の採用と育成をどう考えるかにも書いています。
選択肢は3つあります。採って育てる、外部に任せる、その併用。どれが正解かは会社の状況によりますが、判断材料として費用の構造を並べてみると見え方が変わることが多いです。金額面の比較はEC運用代行の費用と、社員を1人雇うコストの比較にまとめました。
最後に、見落とされやすい効果を挙げます。「どんな人に来てほしいか」を言語化する作業は、すでにいる社員に対するメッセージにもなります。
自社がどんな人を大事にする会社なのかがはっきりすると、今いる人も自分の立ち位置が分かります。逆に、外向けの求人票では「挑戦を歓迎する」と言いながら、社内では前例のない提案が通らないなら、その矛盾は必ず社員に見えています。
採用ブランディングは、外に向けた飾りではなく会社が何を大事にするかの宣言です。だから宣言した後に、実際の運用がそれに追いつく必要があります。ここが追いつかないと、採用できても定着しません。
求人票を整えても、面接が従来通りだと効果が半減します。多くの中小企業の面接は、会社が応募者を評価する場になっています。でも実際には、応募者もこちらを評価しています。しかも情報量は圧倒的に応募者側が少ない状態です。
だから面接では、こちらから約束を差し出す時間を意識的に作る必要があります。具体的には次の3つを、聞かれる前に伝えます。
| 伝えること | なぜ先に言うか |
|---|---|
| この会社が誰に何を約束しているか | 仕事の意味が分かると、条件以外の判断軸ができる |
| 入って半年で任される範囲 | 想像がつかない仕事には応募も決断もできない |
| 大変な部分・叶わない部分 | 後から知るとミスマッチ、先に知ると信頼になる |
3つ目に抵抗を感じる方が多いと思います。「わざわざマイナスを言う必要があるのか」と。ただ、大変な部分は入社後に必ず分かります。先に言えば誠実さになり、後から分かれば裏切りになる。同じ事実でも、伝える順番で意味が反転します。
面接の最後に「何か質問はありますか」と聞く場面があります。ここは応募者を測る時間だと思われがちですが、実際にはこちらの答え方が評価されている時間です。
「離職率はどのくらいですか」「残業はどのくらいですか」。答えにくい質問が来たときに、はぐらかすか、正直な数字と背景を話すか。応募者はここで会社の姿勢を読み取ります。とくに転職経験のある人は、この手の受け答えに慣れているので、ごまかしはほぼ通用しません。
答えられない状態を放置するより、社内で「聞かれたらこう答える」を決めておくほうが健全です。そして答えを用意する過程で、自社の課題そのものが可視化されます。これは副産物として大きい効果です。
採用ブランディングの話は入社までで終わりがちですが、実際の勝負は入社後です。とくに最初の1ヶ月で、その人がこの会社に留まるかどうかの見通しがほぼ決まります。
ここで起きる問題は、たいてい人柄でも能力でもありません。面接で聞いた話と、実際の現場が違うことです。
面接で「裁量が大きい」と聞いた → 実際は全部上長承認が必要
面接で「チームで動く」と聞いた → 実際は一人で全部抱える
面接で「新しい提案を歓迎する」と聞いた → 実際は前例のない話は止まる
この状態になると、その人は「聞いていた話と違う」と感じます。そして厄介なのは、本人がそれを口に出さないことが多い点です。黙ったまま転職活動を再開します。気づいたときには手遅れになっている、というのが早期離職の実際の流れです。
人手が足りない会社では、丁寧な研修プログラムを組む余裕はないと思います。だから最低限に絞ります。
3番目が効きます。「面接で聞いていた話と、実際やってみて違うところありますか」と直接聞く。答えにくい質問ですが、聞かれれば話してくれる人は多いです。そして2週目なら、まだ調整が間に合います。
この考え方は社内の信頼構築全般に通じる話でもあります。関連して仕事で信頼される人が自然にやっていることも参考になるかもしれません。
最後に一つ。採用ブランディングの整備は、着手した翌月に応募が増えるようなものではありません。求人媒体を増やせば応募数はすぐ動きますが、合う人が来る状態は積み上げでしか作れません。
短期の数字で判断すると、たいてい「効果がなかった」という結論になって元に戻します。この時間軸の取り方については3ヶ月で見るか、3年で見るかで扱っているので、あわせて読んでいただけると考え方が伝わると思います。
ここまで「応募者は求人票の外側を見る」と書きました。ではその外側に何を置いておくか、という話です。凝ったものは要りません。求人を出す前から、次の3つがあるだけで変わります。
ひとつは、実際に働いている人が何をしているかが分かる情報です。業務内容の箇条書きではなく、ある日の一場面が伝わる文章や写真。応募者が最も知りたいのは「自分がここにいる姿を想像できるか」です。
ふたつめは、会社が何に困って、どう解決してきたかという話です。成功談より、こちらのほうが読まれます。うまくいっている話だけの会社は、実態が見えないぶん警戒されます。試行錯誤を書ける会社は、入った後の景色が想像しやすくなります。
みっつめは、更新が続いていること自体です。内容の質より、動いている証拠として機能します。月1本でも構いません。止まっているより、細くても続いているほうが信頼されます。
ここが実務上のポイントです。採用専用のコンテンツを別に作ろうとすると、人手が足りずに止まります。そうではなく、顧客向けに書いている発信が、そのまま採用にも効くと考えたほうが続きます。
自社が何に取り組んでいて、どんな考え方で仕事をしているか。これは顧客が知りたいことでもあり、応募者が知りたいことでもあります。読み手が二種類いると考えれば、一つの発信を二つの目的に使えます。人手が限られている会社では、この兼用が現実的な解になります。
最後に、前提を一つ疑っておきたいんです。「うちは小さいから採用で勝てない」という思い込みについてです。
大企業と同じ土俵、つまり給与・福利厚生・知名度で比べれば、確かに勝てません。ただ応募者の全員がその軸で選んでいるわけではありません。実際に中小企業を選ぶ人が重視しているのは、別のところです。
これらは大企業が構造的に提供しにくいものです。組織が大きくなれば分業が進み、一人の担当範囲は狭くなります。承認の階層も増えます。つまりここは、規模の小ささがそのまま価値になる領域です。
大事なのは、この価値を求人票で言葉にしているかどうかです。「アットホーム」と書くのではなく、「入社半年でこの範囲を任される」「提案から実行までの承認は一段だけ」と具体的に書く。同じ事実でも、具体的に書かれていないと伝わりません。
逆に、この軸で選ばれた人には、入社後に本当にその環境を提供する必要があります。「任される」と言って採用したのに実際は指示待ちの業務だった、というのが最も典型的なミスマッチです。約束したことを実際に守れるかどうかは、ここでも同じ問題として現れます。
整理します。
そして、ここまで書いてきて一番現実的な問題を最後に。この手の整備は「重要だが緊急ではない」ので、人手が足りない会社では永遠に後回しになります。採用したいのは人手が足りないからで、人手が足りないから採用の準備ができない——この循環が実際の詰まりどころです。
私たちは、採用の前段にある発信や運用の部分を、外部の実行チームとして一緒に担っています。人を増やす前にできることを整理したい段階でも、お手伝いできる部分はあると思います。
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